日本ギャスケル協会

会長挨拶

日本ギャスケル協会会長:多比羅 眞理子

日本ギャスケル協会は2010年4月に会長、副会長そして半数近い役員が交代し、気持ちを新たに活動を開始いたしました。2010年は、エリザベス・ギャスケル生誕200年にあたります。イギリスでは様々な記念行事が春から開催され、9月25日には、ロンドン・ウエストミンスター寺院のポエッツ・コーナーのステンドグラスに、多くの著名な文学者と並んでギャスケルの名前が刻まれます。この記念すべき時期に、日本ギャスケル協会の会長を務めさせていただくことは大変光栄なことと存じます。

振り返ってみれば、山脇百合子初代会長(実践女子大学名誉教授)が日本でほとんど知名度のなかったエリザベス・ギャスケルを紹介し、日本ギャスケル協会を日本に設立したのは1988年です。当時の協会員の役割は、まずエリザベス・ギャスケルの長編小説を世に紹介してギャスケルの存在を知ってもらい、次に「作家と作品」の解明をはかることでした。その甲斐あって徐々にギャスケルの存在が日本の英文学界にも知られるようになり、ギャスケルの作品を流れる根本精神は、熱い宗教心と、またその温和な風貌が示すように、ヴィクトリア朝時代の人々が理想とする母のごとき「慈愛」であると理解されてきました。同時に当時のイギリス社会やさまざまな階級の人々のリアリティー溢れる描写にも感嘆したのです。この時代は日本ギャスケル協会の創世期と位置付けられましょう。 

一方、ギャスケル協会が設立した80年代は、従来の「作家と作品」を中心とする文学研究が大きな変貌を遂げ、歴史的、社会的に、かつ多元的に文学を研究しようという機運が高まってきていました。ギャスケル協会でも若い研究者たちを中心としてその研究姿勢に変化の兆しが見られるようになっていました。

4年前の2006年、二代目会長となられたのが鈴江璋子氏(実践女子大学名誉教授)です。鈴江氏は日本ギャスケル協会創立時からの役員として会を支えられてこられていましたが、現代アメリカのリアリズム作家と目されてきたアップダイクの研究において第一人者でいらっしゃいます。その鈴江氏を会長に迎えたことで、日本でのギャスケル研究は一気に多面的に作品の価値を解明する方向へとその歩を進めたのです。その変化を如実に物語るのが、本年9月出版予定の「生誕200年記念論文集」です。この論文集は、従来の作品論ではなく、さまざまな問題点―語り、親子関係、フェミニズム、階級・資本主義社会、そしてリアリズムなどの観点からギャスケルの存在価値を再評価するもので、協会員による31編の論文が収録されています。これは初代山脇会長の創世期から着実に発展してきた日本ギャスケル協会を象徴するものです。

このような日本ギャスケル協会をさらに充実、発展させることが次代を担う私たちの務めです。様々な価値観が混在する現代社会にあって、文学を語ることは大変難しい時代となっています。でも永遠の名作といわれる『クランフォード』の頁をめくるとギャスケルのユーモアとペイソスに包まれた描写に私たちは安らぎを覚え、いつの間にか微笑みを浮かべています。また、『メアリ・バートン』では、貧しい労働者の年老いたアリスやジョブ・リーが語る言葉の中に私たちが人生を送る上での心のよりどころや、癒しを見い出すのです。時代はギャスケルが生きた時代から200年を経てきていますが、ギャスケルの作品に流れる精神は決して色あせていません。現代に立派に生きているのです。

今回、日本ギャスケル協会をまとめる役職を務めさせていただくにあたって、私は、このギャスケル精神をさらにいつまでも生かして行けますよう、協会員の皆様と共に努力するつもりでおります。

どうぞ、よろしくお願い申し上げます。そして、エリザベス・ギャスケルに少しでも興味をお持ちになられましたら、どうぞ、協会の活動にご参加ください。お待ち申し上げます。

                   
           ― Every sorrow in her mind is sent for good. ―
                              Mary Barton, ch. 5

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